2021/12/09

弁護士が解説する!メタバースとNFT

何が問題か?

ここ数週間から数か月、VRとNFTの関係をめぐる発信が話題だ。
いろいろな情報が飛び交っているが、その中には混乱も見られる。

一部のインフルエンサーや団体からは、メタバースへの参入にNFTが必要だとか、メタバースを支える技術としてNFTを挙げるなどの発信もある。

例えば、「一般社団法人日本メタバース協会」からは、以下のコメントが発表されている。


「わが国においてはメタバースについておおまかなイメージがつく人は多いものの、メタバースで何ができるかを理解している人は少ないというのが現状です。

これはメタバースを支えるブロックチェーンやNFT(Non Fungible Token)の技術を理解している人が少ないこと、技術を理解していてもそれをビジネスに展開することは簡単ではないということが背景となっています。加えてネット上にあるメタバースビジネスに関する情報はほとんどが英語で日本語のものはほとんどない、という現実もあります。」
(引用:一般社団法人日本メタバース協会|代表理事ご挨拶|https://japanmeta.org/


しかしながら、現時点で、「メタバース」と、「ブロックチェーンやNFT(Non-Fungible Token)」の技術との関係が整理され、広く認知されているとは言い難い。

そこで、本記事では、NFTがそもそも何であるのか、そして何ではないのかを整理したうえで、「メタバース」とNFTの関係について考察する。

目次

そもそもNFTって何だっけ?

・非代替性トークンであること
・何らかの法的権利ではないこと

このトークンは何に使えるの?――現実世界のNFTの利用例

・NFTアート
・希少性のある投資対象

NFTの譲渡にはどんな意味がある?――NFTの法的性質

・「作品」と「トークン」の峻別
・所有権との関係
・著作権との関係

VRプラットフォームとNFTの関係は?

まとめ――それぞれの発展を願って

・NFTはトークンであって、所有権や著作権といった法的権利ではない。
・NFTを購入したとしても、それだけで法的権利を取得したことにはならない。
・自分の作品を勝手にNFT化されたとしても、それによって法的権利を失うものではない。
・VRプラットフォームに参入するためにNFTは必須ではないし、メタバースをNFTが支えているわけでもない。
・NFTとメタバースとの間に、直接の関係はない。

そもそもNFTって何だっけ?

非代替性トークンであること

NFTとは、Non-Fungible Token(非代替性トークン)の略称であり、ブロックチェーン上で発行されるトークンのうち、トークン自体に固有の値や属性を持たせた代替性のないトークンをいう。

ブロックチェーン技術を用いたトークンのうち、NFTの他に著名なものとしては、ビットコインをはじめとする仮想通貨があるが、ビットコインのトークンは、各々のトークンに個性がない。例えば、あなたが持っている1BTCと別の人が持っている1BTCとは、基本的に同じトークンと考えてよいものである。

これに対して、NFTの場合には、トークン自体に固有の値や属性を持たせるため、デジタルデータであるにも関わらず、「唯一無二」のデータを作り出すことができるとされる。

その意味で、一つとして同じトークンはない「非代替性トークン」である。

何らかの法的権利ではないこと

NFTはあくまでトークンであり、法的権利そのものではない。
したがって、法的権利を譲渡するのであれば、NFTを譲渡すれば足りると考えるのではなく、法的権利自体を譲渡しなければならない。

VR空間やデジタルデータであることによる混乱が見られるが、これは、現実世界に引き付けて例えれば、以下のことと相似である。

① 土地の権利証は通常紙でできているが、権利者であることを証明することは、紙の性質や機能ではない。
権利者であることの証拠とするためには、その紙に適切に文字を記録し、かつ、関連する契約書を作りこむ必要がある。
世の中には、そうではない紙、例えば単なるちり紙も存在する。
NFTも同様であり、適切にデータが記録されておらず、かつ、関連する契約もないNFTをあなたが購入したのであれば、それは単なるちり紙かもしれない。

② 土地の権利証は、土地ではない。
土地の権利証を譲渡するだけで土地所有権の譲渡が完了するものではなく、土地所有権を譲渡するのであれば、土地所有権を譲渡しなければならない。
権利証は、「これを持っているのであれば所有者なのだろう」という推定を働かせるための証拠に過ぎず、それ自体は何の権利でもない。
NFTも単なるトークンであり、それ自体は何の権利でもない。

このトークンは何に使えるの?――現実世界のNFTの利用例

NFTアート

NFTの利用例には様々なものがあるが、特に象徴的と思われるのがNFTアートである。

Larva Labsが手掛けるNFTアートプロジェクト「Crypto Punks」によって生まれたキャラクターアートの一つと結びつくNFTは、2021年1月、約8000万円の値で取引されている。

また、世界最大手のNFTマーケットプレイス「Open Sea」では、日々、様々なNFTが取引されている

希少性のある投資対象

下記に述べるとおり、NFTの取引によって、トークンが移転したからといって、所有権や著作権等の法的権利が移転したとは限らない。あくまで、NFTの取引のみによって移転するのは、トークンのみである。
NFTを購入した者が、NFTアートの著作権譲渡や利用許諾を受けていない場合、そのNFTアートに示された画像を自由に使うことができるわけではない。

にもかかわらず、現に、NFT自体の取引が活発に行われ、ときに多額の値が付くのは何故であろうか。

おそらく、その答えは、NFT自体の希少性にあると考えられる。トークン自体が「唯一無二」のものであるため、希少なトークン自体に投資対象としての価値が認められているのであろう。

しかし、このことは、トークン自体に、画像やデータの自由な利用が可能になるという実用性があることを意味しない。

NFTの譲渡にはどんな意味がある?――NFTの法的性質

「作品」と「トークン」の峻別

初めに注意しなければならないこととして、法的に、NFTアートが示す「作品」それ自体と、その「トークン」は別のものである。

トークン自体を譲り受けたとしても、その際に、作品に関する法的権利を譲り受けていなければ、その作品を自由に使用することはできない。

また、NFTの譲渡人が、作品に関する法的権利を譲渡できる立場にあるとも限らない。

例えば、私が、著名な漫画家の作品(ここでは尾田栄一郎氏の『ONE PIECE』としよう。)の原画を無断でNFT化し、原画の画像をNFTマーケットプレイス等にアップロードしつつ「このNFTです!」と言って販売したとする。

この場合、私は『ONE PIECE』という著作物をNFTマーケットプレイス等にアップロードする権利を持たないため、私が作者や出版社から著作権侵害の責任を問われる可能性があることはもちろん、私は『ONE PIECE』の著作権の譲渡や利用許諾をする権限を持たないため、私からNFTを購入した人も、『ONE PIECE』の著作権やその利用許諾を私から受けることはできない。

したがって、私から上記のNFTを購入した人は、NFTをウォレットに保管していたとしても、原画を自由に使用することができるわけではない。

所有権との関係

現実には、NFTを譲渡することとあわせて、何らかの法的権利を移転させることも考えられる。

その法的権利としては、何が考えられるだろうか。

まず思いつくのは所有権であろう。NFTを「デジタル所有権を証明」するものという説明も、中には存在するようであるため、これについて説明する。

日本の民法上、所有権の客体となるのは「物」であるところ、ここにいう「物」とは、有体物をいうとされている。したがって、NFT化の対象となった作品等が現実世界の物品である場合には、トークンとあわせて、その所有権を移転すること自体は可能と考えられる。

もっとも、その場合であっても、トークンを譲渡することによって所有権が移転するわけではなく、トークンの譲渡と所有権の移転という2つの行為をあわせて行うだけであるため、所有権の移転には別途の合意が必要である。そのため、NFTと無関係の物品の売買と法的に異なるものではないから、NFTが「デジタル所有権を証明」するという表現は不正確なように思われる。

他方、NFT化の対象となった作品がデジタルアートであったり、VRプラットフォーム内で使用するアバターであったりする場合には、有体物ではないため、日本法上、そもそも作品が所有権の対象とならない。そのため、NFTホルダーが「所有者」になることはない。

著作権との関係

次に考えられるのは、作品の著作権である。NFTの譲渡の際に、同時に、NFT化の対象となった作品の著作権を譲渡したり、その利用許諾を行ったりすることは可能と考えられる。

しかしながら、この場合も、トークンを譲渡することによって著作権が移転したり、利用許諾がなされたりするわけではなく、別途の合意が必要と考えられる。すなわち、トークンの譲渡と、著作権の譲渡や利用許諾という2つの行為をあわせて行うだけである。

上記の『ONE PIECE』の設例のように、著作権者でなく、利用許諾の権限も持たないものが発行したNFTを譲渡される場合には、如何にNFTホルダーから「著作物を利用してよい」旨伝えられたとしても、その著作物を自由に利用することはできない。

また、クリエイターの立場からすれば、自己の作品を勝手にNFT化され、NFTホルダーが権利者だと主張してきた場合であっても、著作権者はクリエイター自身である。クリエイター自身が著作権や利用許諾権限を与えていない以上、NFT化やトークンの移転によって、クリエイターの権利が失われるものではない。

VRプラットフォームとNFTの関係は?

ここまでの説明を読んでいただいた方には、メタバースへの参入にNFTが必要だとか、メタバースを支える技術としてNFTを挙げる発信の違和感に気づくと思われる。

VRプラットフォームでアバターを使用するために必要なものは、アバターのデータ(プログラムやモデル)とアバターのライセンス(法的権利)であり、NFTではない。

したがって、VRプラットフォームの参入にNFTは不可欠のものではないし、メタバースをNFTが支えているわけでもない。
実際に、ブロックチェーンに注目が集まったのは、サトシ=ナカモトの論文「Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System」(https://bitcoin.org/bitcoin.pdf)が発表された2008年10月以降と思われるが、セカンドライフの運営開始は2003年であり、ブロックチェーンが普及する前から、3DCGで構成された仮想世界は存在する。

NFTはトークンであり、それに何を記録し、どのような意味を持たせるかは、技術と法律の範囲内で自由に決められるものである。VRプラットフォーム(又はメタバース)とNFTに関係があるというような発信は、そういうこともできるというだけであり、要は「何も言っていない」のである。

まとめ――それぞれの発展を願って

上記をまとめると以下のとおりである。

・NFTはトークンであって、所有権や著作権といった法的権利ではない。

・NFTを購入したとしても、それだけで法的権利を取得したことにはならない。

・自分の作品を勝手にNFT化されたとしても、それによって法的権利を失うものではない。

・VRプラットフォームに参入するためにNFTは必須ではないし、メタバースをNFTが支えているわけでもない。

・NFTとメタバースとの間に、直接の関係はない。

読んでくださった方の中には、特にNFTについて、「思っていたものと違う」という感想を持たれた方もいるかもしれない。また、私が、NFTのいわゆる「アンチ」であると思った方もいるかもしれない。

しかし、これだけは言わせてほしい。

私としては、VRプラットフォームの発展にも、NFTの発展にも大きな可能性を感じており、また期待している。そして、そのための力になりたいと考えている。

もっとも、現状は、直接の関係がないものを無理に結び付けたり、都合の良い拡大解釈とも見えるような発信があったりすると考えており、その結果、VRプラットフォームとNFTの双方に警戒・不審の目が向けられ、ユーザーになるはずだった人々が遠ざかり、発展の妨げとなることを懸念している。

私の書いた記事が、技術や法律の正しい認識と警戒・不審の解消に少しでも役立ち、VRプラットフォーム及びNFTそれぞれの健全な発展の一助になることができれば、望外の喜びである。

ライター:日本橋川法律事務所 弁護士 五十嵐良平
第一東京弁護士会 登録番号:56427

参考文献

・天羽健介=増田雅史編著『NFTの教科書』(朝日新聞出版,2021年)
・柿沼太一「NFT取引の法的分析~「NFT化」「NFTの保有」「NFTの売買」とは法的には何を意味しているのか~」(https://storialaw.jp/blog/8344
・ねこます「メタバースでアバターが使えるお買い得なNFTを紹介する!?」(https://note.com/nekomasu2/n/na31b19c8f287
・バーチャル美少女ねむ/NEM メタバース文化エバンジェリスト「メタバース完全に理解した【原住民が解説する定義・現在・課題・可能性】」(https://note.com/nemchan_nel/n/n7120451edb70